藤井聡太全局集が発売決定【棋譜集を形式別で整理してみた】
先日、個人的にかなり衝撃的なニュースがあったので紹介します。
藤井聡太六段の全局集が発売決定し、現在予約受付中の状態です。
- 作者: 書籍編集部
- 出版社/メーカー: マイナビ出版
- 発売日: 2018/06/26
- メディア: 単行本
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正直、驚きました。
過去の偉人と言われる伝説級の棋士や今現在A級でバリバリ活躍している棋士でも個人の全局集を出している棋士はほとんどいません。
全局集とは、要するに対象のプロ棋士の、デビューした後の公式戦の全ての棋譜を掲載し解説したものですが…、これがなかなか出版までの条件が厳しいらしく、ほぼ存在しないのです。
少し、順を追って説明したいと思います。
まず、そもそも棋譜集を買う価値についてなんですが…
棋譜は今の時代ネットでも見れますから、棋譜が載っているだけでは正直あまり価値がありません。
むしろデータベース化しているので、そちらの方が圧倒的に便利だったりします。
よって、個人的には「解説がどれだけ詳しいか、誰が解説しているか」が棋譜集の需要と価値を決定するような気がします。
例えば対局者本人の解説であれば、何を思って指していたのか、など実際の心理的掛け引きを知ることができ、勉強だけじゃなく鑑賞的な面白さも増したりするわけですね。
まあ、そういった理由で棋譜集を買い求めるわけです。
で、次に当たり前なんですが、全局集は棋譜集の形式の一種であり、実際には他にも色々な形をとり出版されています。
最近だと、戦法別にまとめたものもあります。
ただ、個人の名前を全面に押しだしている棋譜集に絞ってみると、その中での出版までのハードルは異様に高いです。
少し、ハードルの低いものから順に並べてみたいと思います。
(※以下、全て私個人の見解です。
失礼な書きっぷりもあるかもしれませんが、尊敬語や敬称を多用すると読みにくいと思いますので、その点ご了承ください。)
実践集、名局集など
【ハードル:低】
- 作者: 加藤一二三
- 出版社/メーカー: マイナビ出版
- 発売日: 2015/11/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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まず、個人名を全面に出している棋譜集で一番ハードルが低いと思われるのが、実践集や名局集です。
過去タイトルをとったり、棋風から異名を付けられるような名棋士から出ている印象です。
泥沼流、カミソリ流、火の玉流とかがそうですね。
実践集は現役のトップ棋士、名局集は引退した先生方から基本出ているようです。
数ある対局の中から、好局や思い出深い対局の棋譜を「厳選したもの」になります。
出版の条件としては、
①A級在籍経験がある
②基本タイトル戦に絡んでいる
③将棋界で何かしら功績を残した
④それ以外でも人気の高い棋士
って感じでしょうか…
何にせよ、これは並べる価値がある!と思わせるような好局が多く存在することが必須です。
「一番低いハードルでこれかよっ!?」
って感じですが、同じ時間で棋譜を並べるなら強い棋士の棋譜を並べたいと思うのは当然なので、トップレベル以外の棋士の棋譜集をお金を払ってわざわざ買いたい人は少ないのが、悲しいですが実情でしょうね…
タイトル戦などに焦点を絞ったもの
- 作者: 読売新聞社,読売新聞=
- 出版社/メーカー: 読売新聞社
- 発売日: 2006/02
- メディア: 単行本
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次に、タイトル戦に焦点を絞った形式のものが挙げられます。
こういった形式の本の特徴としては、例えば名人戦であれば7局しかないわけですから、棋譜や解説が詳しいのは当たり前、当時の棋士本人の心情や何を夕食に食べたか等細かい所まで載っているものが多い印象です。
どちらかというと勉強目的というより、ファンブック的な側面が強いのかな…
出版の条件としては、
名人戦や竜王戦の七番勝負に出ることですが、より需要を求めるならば、
①タイトル保持者や挑戦者が人気の高い棋士
②最終局までもつれ込んだりと、熱戦が多い
③記録的なものが絡んでいたり、何かしら注目される理由がある
って感じですかね?
実情としては、名人戦は条件なしで毎年出版されているようです。
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2017/08/18
- メディア: Kindle版
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竜王戦は少し前までは、毎年?出ていたようですが、今は出ていないんですかね、見当たらないです。
あと、かつて『将棋名人戦全集 全12巻 第1期から第35着まで 編者: 大山康晴 (将棋名人戦全集) (将棋名人戦全集)』なんてものもあったみたいですね。
ただ、考えると分かりますが、名人戦や竜王戦の決勝まで漕ぎ着けなければいけないわけですから、ターゲットとなる棋士にはその時点での世界最強レベルの棋力が必要です。
VS(ブイエス)形式の全集
【ハードル:中〜高】
- 作者: 大山康晴,中原誠
- 出版社/メーカー: マイナビ出版
- 発売日: 2018/03/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この辺からハードルがぐっと高くなります。
VS形式の特徴としては、二人の棋士に焦点をあて、その対局を全て載せている構成となっている点です。
要するに上手く指せた対局も、ポカして頓死して負けたような対局も全部載るわけです。
そこが名局集等との明確な違いになります。
ただそれを含めてもこの二人の対局は名局ばかり!非常に勉強になる!という場合のみこういった形式の本になる印象です。
近年の本で手に入る可能性があるのは、以下の7冊です。(他にあったら気づいた時点で随時追加します。)
・『谷川vs羽生100番勝負―最高峰の激闘譜!』(2000/日本将棋連盟)
・『永久保存版 羽生vs佐藤全局集 (プレミアムブックス版)』(2006/日本将棋連盟)
・『羽生VS森内百番指し』(2011/毎日コミュニケーションズ)
・『大山VS升田全局集』(2016/マイナビ出版)
・『大山VS米長全局集』(2017/マイナビ出版)
・『中原VS米長全局集』(2017/マイナビ出版)
・『大山VS中原全局集』(2018/マイナビ出版)
出版される条件としては、
①両名が時代を築いた最強クラスの棋士
②最低でもどちらか一名はその中でも群を抜いての超人気棋士
って感じでしょうね。
このレベルになると全員名人獲得経験はあり、永世名人や竜王(十段)取得などタイトルの獲得回数が多い、その時代の最強に名前が上がる棋士ばかりです。
特に羽生、大山の名前が目立ちますね。
VS形式の旨味としては、対局者同士の勝負の歴史を時系列に沿って鑑賞できる点でしょうか。
個人の全局集
【ハードル:高】
- 作者: 将棋世界
- 出版社/メーカー: マイナビ
- 発売日: 2015/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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最後に、最もハードルが高いのが個人の全局集になります。
(今回、藤井六段が出すのも、このタイプ)
棋士個人にターゲットを絞って、デビュー戦からある時点に至るまでの全公式戦の対局の棋譜とその解説を収録したものです。
VS形式との違いについては、相手が誰であれ全部載る点にあります。
失礼な言い方ですが悪く言えば、
「その人が指しているのなら、相手が強かろうが弱かろうが勉強になる」
って事でしょうね。
(もちろん、勝ち続ければいずれ強い相手としか当たらなくなるわけですが)
他にも購買層には、最強の棋士が指している将棋だからこそ、安心して参考にできるみたいな心理もあると思います。
出版される条件としては、
①時代を築いた棋士の中でも、抜きん出て結果を出している超人気棋士
という一点だけでしょう。
棋士本人に超絶的な強さと人気がなければ誰も全ての棋譜をチェックしようなんて思わないので売れない、よって出版されないと思います。
実際に、私が知る限り個人の全局集を出しているのは木村、大山、升田、谷川、羽生の5名だけです。(既に絶版のものもありますが、再販されているものも多く、また羽生、谷川両名につきましては他に続編の書籍があります。)
・『木村義雄全集』(1944/博文館)
・『大山康晴全集』(1977/大修館書店,1991/マイナビ出版)
・『谷川浩司全集I 名人就位まで (プレミアムブックス版)』(1989〜/毎日コミュニケーションズ,2018/マイナビ出版)
・『CD-ROM版 升田幸三全局集』(2005/講談社)
・『羽生善治全局集 ~デビューから竜王獲得まで~』(2014〜/マイナビ)
終わりに
長くなりましたが…
藤井六段が全局集を出すと聞いて驚いたのは、これらの棋士と比較して才能は負けじ劣らじと言えど、未だ大きな実績を残していないと言えるからです。
確かに、史上最年少プロデビュー後の29連勝や全棋士参加棋戦である朝日杯将棋オープン戦優勝による史上最年少六段昇段、順位戦全勝での昇級…
いずれ史上最強と呼ばれる可能性は十分に垣間見えますが、未だタイトルをとっているわけでもありませんし、史上初七冠を達成した羽生先生でさえ全局集が世に出たのは比較的最近であることを考えると、早すぎるような気もします。
ただ、近頃の将棋ブームを巻き起こした張本人であり、今がノリにのっている時期だからこそ、新たな将棋ファンを取りいれるためにも「今」がタイミングなのかもしれません。
というか正直、単純に藤井聡太全局集欲しいしね(^_^;)
古い棋士の棋譜も勉強にもなりますが、やはりリアルタイムで活躍している棋士の棋譜ってのは新鮮味がありますよね。
軽い気持ちで覗いてみたくなるというか。
藤井六段が他の棋士と違う点は、まだ結果は出していないけども、将来的にトップ棋士としての活躍を確信させる、またされている、という点でしょうね。
要するに、
「超ビックリしたわ!」
ってのを書きたかっただけなんだけどね…
メチャクチャ長くなってしまった。
スイマセン(´-﹏-`;)
おそらく今回売れれば、来年以降も年度ごと続きが出版されるのでしょうが、気負わずノビノビ指していただきたいです。
因みに、現在予約受付中の藤井六段の全局集ですが、以下のサイトで通常版とは異なる愛蔵版の予約も受け付けてるようなので興味ある方は是非。
特典もあるようです。
(値段倍くらいしますが笑)
将棋情報局
(https://book.mynavi.jp/shogi/products/detail/id=90486)
因みに棋譜集についてずっと語ってきてあれですが…
棋力向上という観点で棋譜並べは勉強に必須かというと、私自身もまだ必要と思える棋力ではないので確信はないのですが、少なくとも級位者のうちは無理に取り入れる必要はなさそうです。
(プロの先生方の手の意味を理解できるレベルにないため)
ただ、棋譜を並べていると、あっそういう攻め方があるんだっ!?とか級位者には級位者なりに色々発見があるので、気分転換にでも並べてみるのはオススメです。
いつも同じ展開になって自分の将棋がマンネリ化してる人は、そこから抜け出すヒントをもらえるかもしれません。
他にも早く並べるべきかジックリ並べるべきかとか、実物の盤駒か電子か、とか色々試行錯誤するポイントはあるんですが、それはまた今度。
因みに蛇足かもしれませんが…
全集について一つ気になる点があるとすれば、大東亜戦争前にシリーズもので『名人八段指将棋全集』(1928/大森書房)という棋譜集が存在しており、巻ごとにターゲットの棋士が入れ替わる構成だったみたいなんですが、(例:一巻は関根金次郎十三世名人)実際に今まで説明してきた意味での全局集であるかは古すぎて不明です。
まあ、他にも知らない棋譜集が実はあるかもしれないですが、あくまでも近年で手に入る棋譜集としては、述べてきた事に大きな間違いはないと思いますのであしからず。
※2018/5/30追記
記事タイトルを変更しました。
- 作者: 書籍編集部
- 出版社/メーカー: マイナビ出版
- 発売日: 2018/06/26
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